Tl-201におけるTEWのwindow幅
 千葉県循環器病センター 柳沢 正道 
 「INNERVISION 第16巻 第1号 デジタルイメージングの落とし穴」 からの引用

 Tl-201の場合、69,71,80,83keVのHg-201の特性X線と135,167keVのガンマ線が存在する。
 現在、散乱補正法として簡便で精度が良く、最もひろく普及しているのがtriple energy window (TEW)法である。TEW法では、メインウィンドウの上下に設定したサブウィンドウにおいて散乱線を推定し、メインウィンドウからサブトラクションを行う方法である。したがって、精度の高い補正を行うためには適切なエネルギーウィンドウの設定が重要である。
 高山1)らは、TEW法による散乱補正における最適エネルギーウィンドウの設定について、以下のような方法を提案している。
  1. 核種固有のガンマ線エネルギーおよび放出割合でガンマ線を発生させ、得られたエネルギースペクトラムに対して検出器のエネルギー分解能を考慮して畳み込み積分を行い、一次光子のスペクトラムを求める。
  2. 得られた一次光子のスペクトラムのカウント値がピーク値の1/100になるエネルギーをピークの上下両側で求める。
  3. 2で得られたエネルギーを中心にサブウィンドウを開く。
  4. 3のサブウィンドウの間にメインウィンドウを開く。
 この方法によると、Tl-201の最適エネルギーウィンドウはメインウィンドウ幅が47%になる。
 Tl-201は前述のとおり、特性X線のピークは幅がひろく、一般に71keVを中心とした20%のメインウィンドウの上下に設定したサブウィンドウには、散乱線成分以外に他の特性X線の直接線が存在する。すなわち、特に高エネルギー側のサブウィンドウには直接線の割合が高いため、サブトラクションを行うときに散乱成分だけではなく、直接線の成分まで減じることになり、カウントの損失が大きくなってしまう。これを補うためにメインウィンドウをひろくとることにより、散乱線の推定精度を高くする方法が考案され、その有用性が報告されている2),3)。
 
main window幅
20%
35%
47%
高エネルギー側
sub window画像



散乱補正後
画像



散乱補正後相対感度
(20%を1とした場合)
1.65
2.09
散乱補正後
コントラスト
1.51
1.59
1.58

 上にメインウィンドウを変化させた場合の、高エネルギー側サブウィンドウ画像、および散乱補正後の画像を示す。
 20%ウィンドウの場合、サブウィンドウ内に直接線が多く含まれることがわかる。47%ウィンドウでは十分なカウントが得られ、また、適正な散乱補正が行われれば、ウィンドウ幅をひろげてもコントラストは低下しない。
 しかしながら、Tl-201の場合、後方散乱による影響が大きく、散乱線の分布がプロジェクション方向に依存するため、不均一な吸収体のなかに放射能分布が偏って存在する場合、再構成画像に歪みを生じる可能性がある4)。
 サブウィンドウのウィンドウ幅の設定に関しては、ひろすぎると散乱線量推定の誤差が大きくなり、また、狭すぎると収集カウントが低下し統計的誤差が大きくなるが、3〜10%程度であれば精度よく散乱線の推定が可能である。


参考文献
1)高山卓三、市原 隆、木村信篤・他:triple energy window散乱補正における収集エネルギーウィンドウ設定方法の一般化.核医学,35・2,51〜59,1998.
2)古嶋昭博、松本政典、大山洋一・他:201Tlイメージングにおけるoff-peak triple energy window収集による散乱補正.核医学,34・9,789〜796,1997.
3)小野時成、尾川浩一:201Tlイメージングに対するTEW法の適用に関する研究.核医学,35・8,705〜713,1998.
4)Narita,Y.,Iida,H.,Eberl,S.,Nakamura,T.:Monte Calro Evaluation of Accuracy and Noise Properties of Two Scatter Correction Methods for 201Tl-Cardiac SPECT.IEEE Trans.Nucl.Sci.,44,2465〜2472,1997.


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